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あれから何事も起きぬまま、カガリは実習生活を過ごした
次の日、彼と顔を合わせるのが嫌で仕方なかったものの、
仕事とプライベートは分けなければと自分に言い聞かせ、
引きつる頬を抑えながらアスランと仕事をしていた
彼もまた、カガリには至って普段と変わらぬ態度で接してくる
なんだよ!もう!!
自分が馬鹿みたいじゃないか!!
カガリはある意味やけになっていた
授業が終わり、廊下で数人の生徒に囲まれながらカガリは談話をしていた
「アスハ先生、彼氏いるの?」
目を輝かせなが女の子たちはコチラを見つめてくる
うっ・・・・
これだから、思春期の奴らはっ
思い出すのはアスランとのキスシーン
違う違うと頭を横に振る
タジタジしながら、カガリはあくまで毅然な態度を貫き通す
「こらこら、お前達は・・・」
「いいじゃん、教えてよ〜」
「私たちも先生みたいな大人な女性になりたいんだもん」
なんだ?
年齢が上ならわかるが
言っている意味が分からん
もともと女の子と話すよりは男の子と話したほうが気さくで楽だったカガリ
まして、年頃の学生相手になると大変だ
生徒の手本になるような教師を目指している以上は下手に彼らの話に付いていっては困る
どうして、こーいう話が好きなんだろうなぁ?
歳の差があればモノの価値観や見方が変わるのは歴然でコチラが合わすのに必死だ
「秘密だ お前らの好きにとっていいよ」
「え〜!!」
「じゃ、俺立候補しちゃおっかな!!」
「あー!ミゲルずりぃぞ!!」
盗み聞きしていた男子生徒らが我が先にと手を上げる
もちろんこれにはカガリも冗談で交わしたが・・・
「何を騒いでいる!!」
ちょっとふざけ過ぎたかもしれない
とたん、後ろから大きな声で他の教員に怒られてしまった
まずい、ヤバイなぁ
アスランにチクられたりしたら実習減点だよ!
しかし、こいつら・・・・・
もちろん生徒達はカガリの背に周り守りの体制
こんな時ばかり隠れやがってー!!!
「騒がせてスミマセンでした」
恐る恐る声の方を振り返り頭を下げる
「いや、わかればいい」
え?
この声は・・・
「あ・・・・・・・・・・」
アスランじゃないか?!
自分の目の前にいるのは、まさしく彼で
思わず口を手で覆い名前を出すのを我慢する
「ミゲル!」
「はっ、はい!!」
「お前はちょっと教員室に来い この前のテストについて話がある」
「は〜い・・・・・」
肩をガックリ落としながら、ミゲルはアスランと共に教員室へと歩き出した
「あーあ、ザラ先生怒っちゃった」
「ああなったザラ先生怖いからね〜」
「ミゲルの奴可哀想に・・・・」
取り残されたカガリを他所に、女の子たちはヒソヒソと話し始めた
カガリはそれを聞いて何だか悪い気分になった
自分は仮にも教師なのに・・・・・・
彼をフォローする言葉も思いつかず、担任のアスランの一括した言葉で締めくくられている
このままじゃ駄目だ!!
カガリは急いで教員室へ後を追いかけた
ガラっと扉を開け、中にいるはずの二人の姿を探す
案の定、アスランは自席に着き、眉間に皺を寄せながらミゲルに何か書類を手渡していた
「ザラ先生!」
小走りに彼らのいる場所へと近寄ると、ミゲルはもう退室しようとこちらに歩き出す
「ミゲル・・・・・!」
「アスハ先生?」
「その・・・さっきは・・・悪かったな」
「ああ、全然平気ですよ それよりテストの点が悪かったからって課題だされちゃいました」
彼は苦笑しながら右手のプリントを翳して見せた
「んじゃ、失礼しました〜」
ミゲルはいつもどおり、帰る挨拶を済ませドアを閉めていった
一方、状況がイマイチ理解できないカガリは呆然と彼の背中を見送っている
「アスハ先生・・・・・どうかしたか?」
「あ・・・」
たじろぐ彼女の姿にアスランは一瞬困惑する
「・・・・・ちょっと、コッチ」
場所が場所なだけあって、彼も思うように喋れない苦痛を感じ
カガリの腕を引っ張りながら教員室を出て行くと社会科準備室へと連れ込んだ
中へ入ってもドアから離れ小声で話す
「如何したんだ、カガリ?」
「だって・・・・アスランってばミゲルの事叱ったろ?」
掴んだ手を振り解きながらカガリはアスランを見上げた
「ああ、それはテストの件でだろう」
「嘘だ!ミゲルの点はそんなに悪くないじゃないか!!さっきの廊下で騒いでいたから怒ったくせに」
カガリの言い分にアスランは前髪を掻きあげ溜息をつく
普段はそうでもないクセに、どうしてこうも鋭いのか
ある意味分析力というか洞察力が良いのかもしれない
曲がった事をするのが大嫌いな彼女の性格
自分も昔から重々承知だ
「お前はそのまんまなんだな・・・・」
「え・・・・?」
アスランはカガリを見て懐かしそうに微笑んだ
「確かにそうかもしれないな これは俺の嫉妬からもきている」
「アスラン?」
嫉妬?
私たちが楽しそうに話をしていたからか?
ならアスランだって・・・・・
「カガリ、俺が言っている意味全然分かってないだろう」
キョトンとしたカガリの態度に重石をつけた言葉をぶつける
いくら不器用なアスランでもここまでして鈍感なカガリには思いやられる
「な・・・なんだよ」
「言葉や行動で示さないと判らないかな?」
そういってスルリとカガリの背に手を回し、身体を引き寄せる
「わっ!ちょちょちょっと待って!!」
「静かにしないと気がつかれるよ?」
アスランの言いたい事がはっきりと理解したカガリは慌てて押しやろうとする
が、彼女のか細い手では成人した男の人の力を押し返す事など到底無理で・・・・
ただアスランの旨に手を置くような格好になってしまった
「どーいうつもりだ!大体、ここは学校だぞ!!」
誰かに悟られては大変だ
体制は変わらないまま、アスランに抱きしめられ、
だが何とか食い止めようと両手で彼の両腕を抑えながら
カガリも極力小声でアスランに講義する
「どうも、こうも・・・・・俺は嫉妬しただけ」
「意味が分からない・・・・・私にか?」
アスランは問いかけに子供のように首を横に振る
「・・・・・・羨ましかったのかよ?」
「ちがう・・・お前を誘った」
「・・・・・・・・・・・・・・・まさかミゲルに?!」
記憶を手繰り寄せ、まさかとは思ったが口にした
アスランは何も言わない
ただ、コツンと額をくっ付けて瞳を閉じる
「・・・・・・」
今度はカガリが溜息をつく
「お前、本当にバカだな・・・・・」
「なんとでも」
年上なのに、時々年下のように思える
それでも、そんな彼を愛しいと思える自分がいた
「私が子供相手にするわけがないだろう 冗談に決まってる 無論、相手もな」
「わかってはいるさ けど・・・・・」
俺自身が許せなかった
彼女に手を出そうとする異性を
私欲のため、彼を叱り課題を突きつけた
何をやっているんだと自分を問うても
怒りを収める術が判らない
「カガリ・・・・」
腕に残る力が緩むとアスランはさらに抱きしめる
自分に言い寄る相手を怒り、嫉妬してくれたのは嬉しい
だが、彼は
自分にとって彼は必要な存在だが
お互いの関係はというと・・・・・・
「ザラ先生、ここ学校ですよ」
「お前な」
これ以上は駄目といわんばかりにカガリはすかさずスキをつく
「・・・・・・・なぁ、アスラン」
「なんだ?」
「この前、どうして・・・」
カガリが言葉を発しようとした時、
『社会科のザラ先生、至急教員室までお越しください』
彼を呼ぶ放送に寄って遮られてしまった
「すまないカガリ・・・今日電話するよ」
「あ、いいんだ どうせ大した事じゃないし・・・・ほら、呼んでるぞ行って来いよ」
「本当にゴメン」
「じゃぁな また、明日・・・」
遠慮しがちに先に出て行くアスランを作り笑顔で送り出す
パタンとドアが完全に閉まったのを合図に
カガリの胸に虚しさが広がった
なぁ、アスラン
どうして・・・・・
「どうして キスしたんだ?」
言葉は誰もいない部屋に響いた
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2012/02/12