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一時間後、お目当ての相手からお迎えの連絡が入った



『あ、カガリか?』
「うん」
『今、向かっている もうすぐ着くから』
「き・・・気をつけてな」



口数が少ないのは気のせいか
アスランは電話越しに笑った
カガリいわく゛待っててやった゛のだと自分に言い聞かせていたが
彼の車を確認すると本当に来たんだと妙な嬉しさが込み上げてきた
今の時間だけは、アスランは自分だけを考えてくれている
周りに気にすることなく彼と一緒にいられるのだと、
そう考えたら、ドキドキ胸が止まらなかった



「すまない待たせたようだな」
「心配ない大丈夫だ」
「・・・・・にしても」
「な、なんだよ!馬子にも衣装って言いたいのか?!」



さっきから心臓が飛び跳ねている
実はいつもどおりのスタイルで行こうと思ったのだが
アスランがどこに連れて行ってくれるのかも分からない
彼が学校から直接来るとあればスーツで来るに違いない
なら下手な格好をして、レストランに入れないとなれば彼に迷惑が掛かってしまうので
カガリは散々悩みながらも薄緑色のワンピースに白のカーデガンを羽織った
勿論、足元も色とりどりのビーズであしらった白いミュールで決めている



「いや、とてもよく似合っているよ」



カガリを慈しむかのように見つめ、そっと瞳を細めた
そんな風に見つめられてはどうしようもない



「さ、行きますか カガリ姫」
「あ、あぁ」



アスランが助手席側のドアを開け、かしこまる
目を白黒させながら、カガリは車の助手席に乗り込んだ
そういえばアスランの車に乗るのって初めてだ
カガリはじっと彼の顔を見てしまう



「何?」
「ああっ、何でもない!!気にせず運転してくれ!」



気付かれてあははと笑い誤魔化した
暫く夜景観賞も兼ねてベイブリッチを通り過ぎると、
アスランはハンドルを切り、渡り終えたすぐ次のインターで降りた



「ここのレストラン、新しく出来たばかりなんだって」
「へ〜 ベイサイドで景色もいいじゃないか 好きだぞこーいうの」
「そうか」



車を降りるなりアスランは微笑む
そしてそのまま、レストランの入り口を開け私を中へ促した
一応はレディーファーストの心得はあるようだ



「サンキュー」



普段履き慣れないヒールで歩き中へ入る
いつもスニーカー派な彼女にとって御めかしの為に履いたミュール
一足も持っていないのも女の恥じだと考え、
とりあえず数足揃えてみたものの、履いた試しがない
まさに今日のカガリにとって強敵だ



「う」




尾後つかない足元に気がついたのか、アスランはそっと彼女の肩を抱き自分の方に体を寄せる



(アスラン・・・・)



彼もまた、自分の為にお洒落をしてきてくれた事を嬉しく思い
慣れないヒールを履いてきたカガリを怒ったりは出来なかった
今日のメニューはフレンチで好きなモノを食べていいよと言われ散々悩んでしまった
いくら奢ってくれると言われても、高いものなんて頼めるわけがない



「どうしよっかなぁ〜ゴメンな決めるの遅くて・・・」
「ゆっくりで良いから」



そんなカガリを独り占めするように見つめるアスラン



「よし、決まったぞ!!」
「どれにする?」
「うん、シェフお勧めコース料理」



結局、無難なコース料理を頼んだ



「いいの?自分の食べたいものとかは?」



どうやら自分の考えは見抜かれてしまった
彼の勘のよさは相変らずだ



「いいの!アスランだって同じのでいいだなんて言うから、もし頼んだのが嫌いだったらって思ったら悪いだろ?」
「それは・・・・・そうだけど」
「ご飯は美味しく楽しく食べたいじゃないか!」



後押しするようにカガリはニコリと微笑んだ
これにはアスランも負けを認めるしかない



「だな」



ウォーターグラスを置くと
流れる動作で片手を上げボーイを呼ぶ



アスランってこーいうの慣れてるよな
他の女の事かとも食事とかするのかな?
私はアスランと一緒に食事なんて初めてだから、彼がどうとかっていうのはわからないけど
なんていうんだろうか、他の人達とは違う品の良さを持っているかもしれない



ふと気がつけば、周りはカップルばかり
自分達もそーういう風に見られているのだろうか?
料理が次々にやってきて、うまそうだvなんて感動はするものの
食べている時も、気恥ずかしさが襲ってくる



「どうした?」
「ん?何でもない」



食事を終え、二人は食後に軽くワインを楽しんだ



「昼間は・・・・・すまなかったな」
「昼間?・・・ああ、気にしていない」



カガリは頬杖をつきながら、ワイングラスの中をじっと見つめていた
液体越しに彼の顔が見える



「だって、本当の事だし 今だって恋人なんていない」



まぁ、男の一人二人ってのも嘘だけど・・・・・
今は言わないでおこう、うん



すると、アスランはちょっと意外だという顔をしていた



「なんだよ、そんなにおかしいか?」
「・・・・・・・俺、ちょっと嫉妬してた」
「なんで?」
「なんでだろうな」



ナゾナゾを仕掛けるかのごとくアスランは意味深に微笑んだ



「さて、夜も遅い事だし、帰ろうか?」
「ああ、そうだな 明日も仕事か・・・」



腕時計で時刻を確認するとカガリは溜息をつく
そんな仕草さえ、彼女らしさが滲み出ている
アスランはさりげなく微笑んだ
支払いを済ませ、待合の椅子に腰掛けていると、アスランはトコトコやってくる
カガリは立ち上がり、行きよりは歩きなれたヒールで彼のもとへ歩み寄った



「さ、帰ろうか」



全然気にしない素振りなのに、彼の手はしっかりと私を支えるように腰に回されている
ちょっとどころかかなりドキドキしてしまう



「やっぱりちょっと暑くなったな」
「ああ、夏だからかな?」



出口を開けるとカランと鈴が鳴った
すれ違う女の子達がチラチラとこちらを見ては小さく黄色い声を上げているのが聞こえた



そりゃアスランはかっこいい部類に入るだろう
私なんかとうてい似合わない事ぐらい判ってるさ



カガリは口元を尖らせて、アスランの服に捕まっている手に力をこめた
周りから見ればべったりくっ付いている恋人同士にしか見えない状況
先ほどの女の子たちも、実はアスランの整った顔の評価とカガリのドレス姿の麗しさに溜息と
そして、あまりの美男美女に声を上げていたのだ
当人達といえば、そんな事は気づきもせず
アスランは何を考えているかはわからないが、カガリは嫉妬に心燃えていた



「カガリ?」
「・・・・・ゴメン ちょっと飲みすぎ」



そう言い訳をして、近くで香る懐かしい彼の匂いに身を任せた















「送ってくれて、ありがとな」
「構わないよ また出かけよう」
「いいのか?」



期待しちゃうじゃないか



嬉しがる自分を押し殺して平然を装う



「あたりまえだろ 今度はスニーカーでな」
「!!」
「きちんと手当てしておけよ?」



その一言でカガリは赤面する



気がついてたんだ!!
靴ヅレ・・・・・



確かに、歩く時は彼が支えてくれて助かった面も数多くある
エスコートも兼ねて、気にしていてくれたとは・・・
アスランの紳士ぶりにカガリは己の未熟さに恥かしくなった



「カガリ?」



俯いてしまった彼女を覗き込む
紅く彩られた唇を尖らせ、ちょっぴり怒った表情を見せる



「怒った?」
「ちがう!もう帰る!!オヤスミ!!」
「よかった じゃ、オヤスミ」



そう言って彼は滑るようにカガリの頬に手を沿えた
見上げれば、自分を見つめる翡翠の瞳の曲線がさらに細くなる
そして、自分のものと彼のものが重なった
一瞬何が起こったのか理解できず、
彼が立ち去った後も、暫く玄関前で佇んでいた
突然、別れ際に落とされた口づけ
ワインで酔った熱とは違う熱が全身を駆け巡る
カガリは無意識に唇を指でなぞる
数分前にはなかった温もり
その後にはあった感触
2度目のキスは、ほんのり甘く切なかった





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2012/01/29