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今日はミーティングと授業の見学だけだった
実習の打ち合わせだからといって特別扱いはされない
きちんと他の先生方と同じく定時になるまでは帰れない
カガリは与えられた臨時教師用の机から立ち上がった
帰り支度を終え、自分のタイムカードを機械に通し、所定の場所へと戻す



「アスハ先生」



ポンと肩を叩かれ呼び止められる



「ザラ先生、なんですか?」



教師である以上、校内では互いに名前で呼び合うのはしない
どちらかが言ったわけでもない なんとなくそう思ったから
カガリも初めからアスランを"ザラ先生"と呼んでいた



「今日、この後用事か何かあるのか?」
「ああ、そうだな コレと言って用事がないが・・・・」



視線を宙に漂わせながらカガリは答えた 



「なら俺の用事に付き合ってくれるか?」
「え・・・・・」



鞄を持つ手に力がこもる
そんなカガリとは対照的にアスランは毅然とした態度でいる



なんだ?
何の用だ?



「俺も今日はもう上がるから、ちょっと待ってて」
「あ、うん」



そう言って手元の日誌を棚に入れ、自分の机に鞄を取りに行く
先に靴を履き、入り口で待っているとアスランはすぐさま出て来た



「さ、帰ろう」
「いいのか?こんな早く帰って・・・」
「いいの 定時過ぎてるんだし」
「ふ〜ん」



カガリはアスランと並んで歩きながら試行錯誤する
どんな話をしたらいいのだろうか?
話し方すらも危ういかもしれない
そう思ったら心臓がドキドキし始めた



あ、やばい
どうしよう?!
なんですぐ近くにいるんだよ!!



「?」



アスランはカガリのおかしな態度に気がついた



「もっとリラックスしたら?」
「久しぶりに会ったんだから無理ないだろ」
「そうか?」
「そうだ!!」
「カガリらしいな」



クスっと笑う



あ、そうやって笑うのは変わらないな



ちょっとばかり遠慮しがちに微笑する
それがアスランの微笑み方だ



「ザラ先生だって変わってないな」
「今は学校じゃない 名前でいいよ」



アスランの言葉に、思わず口を手で押さえる



「じゃ、アスランはどうして歴史専攻なんだ?私はてっきり化学とか工作だとか思ったのに」



工作が得意なのは今に始まったわけじゃない
昔から手先が器用なアスランはキラや私の自転車や腕時計を直してくれたり
キラには自分で動ける電子鳥・トリィを作ってプレゼントしたくらいだ



「化学は臨時教師としてやっているけど、工作は趣味と仕事を一緒にしたくなかっただけ」
「なるほど」



私とて、体力作りが趣味だが四六時中それに付き合うのも嫌だな
むしろ、こっちが参りそうだ
駅の改札を通り抜けホームへと降りる二人



「そーいえばカガリは一人暮らしだっけ?家近いの?」
「ああ、隣町だからな 電車で二つ目」
「俺は5つ先だよ」
「もしかしてアスランも一人暮らし?」
「そう 普段車通勤なんだけど、今日は電車」
「用事ってどこ行くの?」
「教材の買出しと・・・」



差し出された小さなメモには買出しする教材がいくつか書かれている
上目遣いでアスランを見る



「と?」
「・・・食事でもどうかなって」
「・・・・・・・」



カガリはしばし沈黙した



なんだかんだ言って、アスランも上手い口実を作るじゃないか
素直に一緒に御飯食べようと言えばいいんだ
教材の買出しだって言っても独りで買いに行けれるものばかりだし・・・・



「駄目か?」



そんな目で見るなよ
昔から弱いんだからさ〜
家に帰ってもどうせ一人なんだ
食事は誰かととった方が美味しく食べられるよな



「いや、わかった いいぞ」



カガリが返事するとホームに電車が入ってきた



「実習、来週からか」
「うん」



電車に揺られ、いい気持ちになりそうなのを懸命に抑えるカガリ
通勤時間帯で混んでいるかと思いきや、以外にも二人並んで座れてしまった
なんとか会話を繋げようと頭の中で考えているものの、ついウトウトしてしまう
カガリの中では電車=移動中の寝れる場所と解釈してしまっているので困ったものだ



「・・・・おい、寝るなよ?寝たら置いて行くからな」



さすがにアスランも呆れ声でカガリを起こす



「ねっ、寝てない!!大丈夫だ!!」



置いていかれるのも悔しいので、カガリは眠気とサヨナラした



「どうだ?見学の感想は」
「・・・・・アスランきちんと先生になってた」
「なってなきゃ困るって・・・」



カガリの直球過ぎる意見にガクっと項垂れる



いや、だって本当にそう思ったんだもん
カッコいいなって
私もいつかはそうなってやるって思ったもん



「3日目からは授業の半分をカガリが受け持つようにするから」
「えっ?!」
「当たり前だろう 君も先生目指してるんだろ?何のための実習だ」
「そう怒るなよ〜わかってるけど、心の準備が・・・・」



まるで本物の先生に怒られているようだ
いや、本物は本物なんだが・・・・
自分が生徒のような錯覚に陥る



「大丈夫だ、何も一人でやれとは言っていない 俺がサポートするから」
「アスラン・・・・・」



頼りたい気持ちも山々だが・・・・・
それじゃぁ、自分の実力が出せないじゃないか!!



「本当にピンチの時だけでいいからな!!」
「はいはい」



強情な所といい、変わってないな
まぁ、この兄弟の似ているところなんだが・・・・・
最終的には俺に頼ってくるんだよな
それはそれで慣れてるけど・・・



アスランの心に懐かしさが込み上がった



「そういえば初日は全校集会がある そこで対面式があるそうだ」
「やっぱり・・・・本当にやるのかよ・・・・」



全校生徒の前で、壇上に上がって一人一人挨拶をする
昔は生徒側だったけれど、今回は逆に何百人の前に自分ただ一人出て行かなければならない
元々目立ちたがりやな性分だが、やはり緊張はする



「何とぼけた事を言っている 俺たちだって在学中は見てきただろう?」



なんだかさっきから墓穴掘ってる気がする
やたらと正論を正されてるような気が・・・・・



「そうだけど・・・ザラ先生もやったんだ?」
「無論だ」
「きちんと挨拶考えておけよ」



そう言ってサヨナラした
なんだ、始めはどうなる事かと、奴とのコミュニケーションを必死に考えたけど
思ったより全然平気だ
友達の妹だし、アスランも少しは気にしてくれているのかな?
今度、キラにも電話で伝えなくちゃな
連絡とってないらしいし、あいつビックリするぞ♪





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2012/01/29