思い出が重なる前に
季節は5月半ば頃、青々と茂った若葉たちが昔と変わらない風景と共に迎えてくれた
カガリは教育実習の講習を受講する為、実習校を母校に選んだ
今日は実習を始める前に3週間という期間の計画を立てるべく授業見学も兼ねて訪れた
教育実習の原則は主に授業、教務事務活動、課外活動の観察、参加、実習を行う
ちなみに朝8時30分から17時までの間、学校の先生方と同じ様に勤務しなければならない
「やる気充分だけど、ついていけるかなぁ〜」
久しぶりに母校へと足を踏み入れたカガリは校門をくぐって、まず始めに伸びをした
彼女らしいといったらそうなのだが、偶然にも車でどこからか出戻ってきた校長に目撃される
「こら!」
「ひえっ」
思わず悲鳴を出しつつ振り返ったその先には懐かしいバルトフェルド校長が窓から顔を出していた
「やーっぱりアスハだな 後姿からしてそうではないかと思ったよ」
「もー脅かさないで下さいよ」
「話は聞いているよ 同じ学校からあと2名くるようだが・・・」
「あ、そうなんだ 知らないなぁ」
またかと、カガリの性格を知り尽くしている校長は頭を横に振る
おてんば娘として名を馳せらせた彼女は在籍時代数々の歴史を残している
そんな彼女は教師からも頭痛の種としか言い様がなかった
無事に高校へと進学できた時には教師一同ホッと胸を撫で下ろしたものだ
「あれから、成長したかね?その分では思いやられるぞ」
「何を〜!私だって大学生だ!中学の時みたいにガキじゃないぞ!!」
「ははっ、空白の数年間で大きく成長した姿を思う存分、教育実習で見せて貰うぞ」
「あたりまえだ!!」
「カガリっ!!」
腕まくりをして校長にタンカを切っている矢先、突如後ろから声がかかる
「え?」
「あれ〜ミリィにフレイ!!お前らもココだったのかよ」
「おやおや、三人衆のお出ましか」
「お久ぶりです校長」
「私とこいつを一緒にしないで下さい この数年間、学校が同じなだけあってどれだけ大変な・・」
「わーわー!!なんだよ、突然!!」
「結構な事だ!さて、ココではなく教員室に行ってから今後の事を説明しよう」
そう言って自分は先に車で校舎へと走り去っていった
「乗せろよ!ケチ!!」
「カガリ・・・・・・」
校舎に入ると、早速教員室へと通された
知っている先生にも知らない顔の先生にも一通り挨拶を済ませ
懐かしさにもかられたが、思い出にひたっている暇などない
すぐさま実習用のプリントを渡され、規則や実習期間内の学校行事などある程度説明を受けた後
自分の担当教科やクラスを割り当てられる
「アスハ君、君は歴史が専攻教科だったね」
「はい、そうです」
「ええと、キミが実習としてつく教師はザラ先生だ」
手元のプリントを見ながら教頭が眼鏡を持ち上げる
ザラ??
偶然か、私は同じ名前の人間を知っている
そして思い出も・・・・・
「ザラ先生はまだ2年目だが、とても優秀な教員でね 是非に、と我々の方から頼んだんだよ」
「へ〜」
そんな恐れ多い事・・・・
すごくまじめな先生なんだろうな
ついていけるかなぁ?
どっちかっていうと、こう体育会系のノリの方が性に合うんだけどなぁ
なんで私がそーいうクジを引いてしまうんだろう
「今はホームルーム中だが、戻り次第挨拶してくれ」
「はい・・・」
ちょっと俯き加減に返事をする
なんだろう、このモヤモヤは
ついさっきまでワクワクしていたのに
「カガリ、じゃぁ私達は行くわね」
「あ、ああ・・・また後でな」
先に、担任が教務室にいた二人は挨拶を済ませ、教室へと案内されていった
ホームルーム長くないか?
結局置いてきぼりかよ・・・・
取り残されたカガリは来賓様のソファに腰掛けコーヒーを一口飲んだ
自分の母校だけど今までは生徒でいた自分とまだ卵だけど教師側にいる自分
教員室なんて、呼び出し食らった時以外は絶対近寄らなかったもんな
ふっと昔を思い出して溜息をつく
微妙な違和感はカガリにとってこそばゆいものだった
見渡せば1時間目が始まる直前、教員の数も3〜4人に減ってしまった
こうしてみると授業中の教員室も広いものだ
なんて、くだらない考えを発想させていると膝の上に置いてあったノートが落ちた
「おっと・・・・」
自然に開いたページには以前に学校で講義を受けた時の実習への取り組みがビッシリと書かれていた
殆んどヒアリングだったがカガリは夢中で書き残した
教師になりたい
その気持ち一心で
ノートをもう一度熱心に捲っていると ふと、影が落ちた
「?」
自分の影とは違う方向からの暗がりにカガリは何の抵抗もなく見上げる
「勉強?熱心だね」
「あ・・・」
自分は確かに顔を上へと上げたのに元の視野が入ってこない
視界は深いグリーンに覆われた
深い森に捕らわれたと、思うほどだ
カガリは次の言葉が出なかった
教頭から先ほどの名前を出された時
もう少し疑えばよかった
なぜなら、今自分の目の前にいる人物こそ、己の知っている人物だからだ
アスラン・ザラ
それが彼の名前
私の知っている彼
兄の親友で同じ学校の先輩だった人
瞬きを数回し、我を取り戻す
「・・・っ・・アス・・・・」
彼の名前を、最後まで言えなかった
「久しぶりだね カガリ」
けれど彼は動じない
「・・・・・・はい」
「まさかキミも教師になる道を目指していたなんて驚いたよ」
私はお前がココにいる事事態、天地がひっくり返るくらい驚いたよ
ちなみに今も驚き真っ最中さ
「母校に・・・・実習になるのは当たり前だろ」
「ああ、そうだけど」
「話は聞いていると思うけど、私は今日からココに世話になる ついでに言うと担任がお前だ ザラ先生」
「ついでにか?ひどいな 俺の下に一人付くとは聞いていたけど、まさか君とはね」
懐かしいといえばそうともいえる
けれど、私は・・・・・
アスランは昔の事など気にもせず、向いのソファに腰掛ける
「キラは元気?」
「会ってないのか?」
カガリはアスランの発言にキョトンとする
あれだけの大親友ぶりをさんざん見せ付けられてきたんだ
連絡の一つや二つ・・・・
「最近は忙しくてね ゆっくり話す機会もない」
「そっか・・・・・大変だな」
社会人も・・・・
って、自分も来年からだろう!!
「わ、私も大学からは一人暮らしだからキラともあまり・・・・・」
「そうなのか?なんだ・・・・・3人バラバラだな」
一瞬、アスランの瞳が寂しそうに細められた
なんだ、私の答えが期待道理じゃなくて残念なのか?
確かに゛元気だよ゛って答えれば会話も弾むだろう
けれどこっちにはこっちの都合ってもんがある!
そりゃずっとあの時のままいられるんなら私だってそう思う
けどそんな事絶対無理なんだ
「じゃ、今後の日程を話そうか 校内を案内・・・だなんて今更だしな」
「ああ、頼む・・・・・」
こうして、カガリの実習生活が幕を開けた
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昔書いていた物を再録しました(笑)
教師モノでございます。
2012/01/29