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あれから気分が優れないと保健室で休んでいたカガリ
この日は運良く午後の授業は一つも入っていなかった
気がつけば、よく寝ていたようで、腕時計の針はもうすぐ17時を指すところだ



「誰も居ないのかよ・・・・」



頭を掻きながら、まだ覚醒しない頭を叩き起こす
見回してみても保険医も不在な静かな保健室
起き上がるなり身だしなみを整えて再びベットに腰掛けた
ガラっとタイミング良く誰かが入ってきた



先生かな?お礼言わないと・・・



そう思って立ち上がろうとした
が、それも目の前にいる人物に寄って思考が止まる



「アスラン・・・・・」
「具合どう?大丈夫か?」
「・・・・・・」



優しくなんてするなよ



原因である人物自らの登場にカガリは黙って俯いてしまう



「カガリ?どうし・・・・・」



肩に伸ばされた手は一瞬動きを止める
どういうことか彼女は泣いていた
泣くような理由が思い当たらないアスランは戸惑うばかり



「カガリ・・・・・」
「優しく・・・・しないで」
「カガリ?」
「あっちいって」
「・・・・・・・・送るよ、もう帰ろう?」



宥めるようにカガリに言い聞かせ
背中を擦りながら車へと促した
家に着く間もカガリは一言も口を開かない
アスランは心配そうにカガリを見つめる事しか出なかった















「ほら、着いたよ?」



ふらふらした足取りの彼女をアスランは玄関前まで送っていった
ドアを開けるとぼーっとしたままカガリは中へ入っていく



「・・・・・・・・ありがと」



彼女らしくない非力な声で礼を言われる



「カガリ、何があった?」



ドアを閉めようとした時、アスランは己の手で閉めるのを防ぎながら思い切って聞いてみた



「・・・・私の事は構うな それより早くラクス先生の所へ行ってやってくれ」
「ラクス?ラクスに何か言われたのか?」



人目もあるので自分もカガリの家の中に入る
アスランはカガリの腕を掴み、眉間に皺を寄せた



「違う・・・」



思い出す度、ジワリと涙腺が緩んだ



「どうしたんだ?誰に何を言われた?」
「っ・・・アスラン・・・・・・婚約者が・・・いるって」
「!!」



アスランは彼女の言葉に衝撃を受ける
まさか自分以外のところでそんな事が流れていただなんて
出来れば、彼女に知られる前に自分の口から言いたかった



「カガリ、すまない」
「なんで・・謝るんだよ・・・それだけ・・・後ろめたい事があるのか?!」
「ちがう」
「じゃぁっ・・・・・・どーして・・・」
「俺はっ・・・・カガリのことが大切で・・・・」
「なんであの時、キスなんかしたんだよ!!私がどれだけ・・・・っ」



どれだけ苦労したか・・・・
忘れるわけがない
私の初恋の相手
卒業式の後、忍び込んだ図書室で
二人でこっそりキスをした
初めての恋
初めての口付け
カガリの淡い思いは一日にして願いが叶ったものの
そのキスを合図に二人はそれから会うことはなかった
それは実ったといえるのか?



カガリ自身もまた、アスランも感じているのだろう
二人に降り注いだ疑問は長い年月を過ごした後
再びこの地で出会い、想いを沸き起こさせた



「なのにお前はっ!平気な顔して・・・私の前に現れて・・・!!」



怒っているはずなのに何故涙が出てくるんだ?
どうして私はこうもアスランに振り回されるんだ?
嫌い?憎い?
いや悲しいんだ・・・・・・
彼が自分から離れていく事が
彼には婚約者がいる
だから自分にも納得させてストップをかけた
婚約者が、将来を誓い合った相手がいる人を好きになるほどバカじゃない















「忘れていたわけじゃない」















知ってる
だから私に会いに来なかったんだろ?
隣町の進学校へと進んだアスラン
たまにキラと遊びに行く時すらも、絶対にウチに来なかった



「会いに行けばよかったのかな・・・・・」
「そんな事っ・・・・・今更言うなよ!」
「カガリ・・・」
「いつもお前はそうやって一人で考えて・・・・私の気持ちなんて考えた事ないんだろっ!!」
「そんな事ないっ!!俺だっていつもカガリの、キミの事を考えてたさ!!」



アスランの悲痛なまでの叫び
彼もまた、カガリに対してどう接していいのか
ずっと悩み続けてきた
自分は彼女を幸せに出来るのか
カガリは俺を選んでくれたのに
あの時、なんでもう一声掛けてやれなかったのか
過去の罪を償うわけではない
すべては彼女が己の中で大切な存在だから
出逢わなければ、ずっとその気持ちも封じ込めていけた
まさか、運命の悪戯ともいえるあの日










君が俺の目の前に現れるなんて・・・・・










コレは神様が与えてくれた機会なんだと
最後のチャンスなんだと、そう思った
久しぶりにカガリを見た時、彼女の事を綺麗になったとしか言い様がなかった
9年という歳月は意かに長かった事を思い知らされる
いつも自分の側にくっ付いて歩いて、
笑顔がとてもよく似合っていた少女は
美しくも大人の女性へと成長した
湧き上がる想いは日を追う毎に膨らんで
恋人がいないと聞いた時ほど嬉しく思った事はない
自分の下に就き、懸命に実習に励むカガリ
何気なく話し掛けてくる時すらも、平常を装うのに精一杯で
別に関係もないのに彼女に言い寄る異性にも嫉妬して、
自分でもどうかしていると思うくらいだった



「俺だって・・・君に再会した時、すごく嬉しかった!!」
「じゃぁ、どうしてそーやって思わせぶりするんだ?!もう、いい加減に私を・・・」














開放させてくれ















そう言いたかった
長い長い鎖のように繋がった
アスランへの想いも断ち切って
すべて忘れて生きようと・・・
けれど、彼はそうさせてはくれなかった
強い力に身体を惹き寄せられた瞬間、
暖かな温もりが、私の唇に重ねられた
すぐさま彼の舌が滑り込んでくる
角度を変えては舌を絡め、彼女を酔わせる
今までにない深い口づけは、カガリの思考を止めるのには充分すぎるほどだった



「・・んんっ」



嫌とは感じなかった
懐かしい彼の感触
漸く解き放たれたカガリは完全に上せてしまった



「これが本気じゃないとでも?」
「ひっ卑怯だぞ」
「・・・・強がって・・・泣いて言う台詞か?」
「・・・・・・っ」



一度瞳を合わせるとまた自分の胸へとカガリを抱きしめた



「・・・・俺も駄目だな 君を泣かせてしまった」



信じてもいいの?
ねぇ、アスラン



「・・・・・・アスランっ」



カガリは嗚咽をもらし
アスランの背中に己の腕を回し、彼の温もりに強くしがみ付いた
無理にでも忘れようと努力した
好きな人を作れないのならば、好きになってくれる人と付き合おうと何度も思った
彼と会わなかった長い歳月を考えれば、記憶だって薄くなる
けれどカガリにはそれが出来なかった
彼女の心は遠い昔から、彼に占領されていた















せめて今だけは私のモノでいて・・・・・・・







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2012/02/12