対象限定的赤面症
"バレンタイン特集"
きた・・・
ついに、きてしまったこの季節
女子として生まれて、本命と呼べる人は今までただ一人
それも9年越しの恋愛成就だ
カガリにとって初恋の人でもあり、恋人となってからは初めてのバレンタイン
今までだって、チョコはあげてきたさ
だがっ!!
大人になってからもチ○ルチョコはまずいだろう!!(滝汗)
しかもあの時、自分も一緒に食べてたしっ!!
カガリは自分の失態に頭を抱えこんだ
子供心ながら、その行いに恥ずかしくてならない
アスラン・・・
忘れてくれているといいんだが
にしても、お菓子なんて作ったこと無いんだよなぁ〜
そう、カガリは料理なら出来るが菓子作りは一度も無い
料理は独り暮らしをし始めて、死活問題にかかわると悟り自ら独学ではあるが学んだ
しかしお菓子となればどうであろう?
今までは食べる側だったカガリ
このまま自分が作ったチョコをアスランに渡したら・・・・
絶対嫌われる!!
「カガリ 何、真剣に見てるんだ?」
「な、なんでもないっ!!」
背後から近寄られ焦るカガリ
一方アスランは?マークばかり浮かんでいる
「俺にな・・・・」
「それよりっ!キラに電話するんだろ?!」
アスランよりもさらに大きな声で話をそらす
「え?ああ そうだったな電話しなくちゃ」
こーいう時、彼氏が鈍感で助かる
カガリは安堵のため息をつきながら、手元にある雑誌を自室に匿わせた
「こうなったら・・・」
奥の手だ!!
キンコーン
品のある来客用のチャイム
近所では大富豪と言わずと知れた、クライン家の入り口にカガリはお忍びでやって来た
もちろん、対応してくれたのも使用人らしき人の声
名前を名乗り、暫く待つ事になった
うーん
ラクスは快く引き受けてくれたものの・・・・
果たして、本当に来て良かったのか?
自分のいる入り口から、手入れの入った庭園のその先に、ドーンと豪邸が構えている
いったい何坪あるんだよ??
私の部屋なんて、この入り口の建物だけで補えるぞ
あれこれと詮索している内にラクスが玄関から現れた
「カガリさん、お待ちしておりましたわv」
相変わらず、お嬢様いやお姫様オーラは放出しまくりだ
「どうぞ こちらですわ」
「おじゃまします・・・・・」
部屋に通される間も、屋敷の豪華さに口が開きっぱなしだ
「そんなに見ないでください 恥ずかしながら、すべて父の趣味ですから」
「でもお金持ちって感じ・・・・」
「ふふ カガリさんの実家もそうではないのですか?」
「あ、いや・・・・ここまでは・・・使用人もいないし」
キラから聞いたのかな?と、カガリは恥ずかしそうに頬を掻く
「ウチは純和風だし、こっちの方が好きかな」
キラとカガリの実家も、すごい金持ちとは響きにくいが、
父親が医学会の教授という事もあり、ある程度の財産はあるみたいで・・・
クライン家には劣るものの、日本庭園がほんの少しある位の家だった
カガリはどちらかというと、和風より洋風が好みなせいか、すっかりクライン家にご機嫌だった
「けれど、未だ信じられませんわ」
「何が?」
「カガリさん、お料理上手だとキラやアスランに聞きましたのに・・・」
ああ、お菓子作りが苦手だって事ね
仕方ないだろう・・・・
人間ってのは不得意ってのがあるんだって
「折角、二人のお墨付きですのにね」
「ラクスさん、それ以上言われると惨めになるから・・」
「ああ、スミマセンわ」
ラクスはエプロンを二人分用意すると、キッチンへ案内した
「さ、始めましょうか」
テーブルの上にはあらかじめ用意された材料と道具が出揃っていた
「よし!頑張るぞ!!」
カガリは腕まくりをしながらキッチンに立った
こうしてバレンタインまでの数日、カガリとラクスの二人だけの秘密の特訓が始まった
「カガリ 学校忙しいのか?」
「へ?」
特訓が始まって1週間と3日が過ぎた頃・・・・
2月14日までカウントダウンが迫る中、ついに恐るべき事が起こってしまった
アスランも今まで聞く事を遠慮していたようで、言いにくそうにカガリに問う
「いや・・・」
こんな時のアスランは必ずといって良いほど視線を合わせない
カガリは彼の心中を察した
どうしたんだ突然・・・
もしや、そろそろ怪しまれてるかも?
「・・・その・・・・最近、あまり会ってくれないから」
やっぱりぃぃぃ?!
カガリは冷や汗を掻きながら、思いっきり笑顔で弁解する
「な、なーに言ってんだ?やだなぁ、アスラン 会ってないだなんて、そんないつもと変わらないだろ?!」
「そうか?でも、学校はもう休みだろ?」
「あぁ・・・」
「この前は休みだから沢山会えるって、話してたじゃないか・・・」
ギクゥ
この推理力・・・
変な時に発揮するなよ
社会人である自分と学生の彼女
いつも生活時間がズレまくりの二人だが、隔たりが少しだけ緩和されるのが限りある休日だった
その言葉にアスランは、相当嬉しく期待していたようで・・・・
カガリですら、彼の落胆した姿が目に見えていた
「ほっ ほら、急にさ 先生が教師になる前に特別課題授業をやるっていってきて・・・」
「え〜?俺の時、やったっけなぁ?」
アスランは記憶の糸を辿る
「大学が違うから、やらないんじゃないのか?ごめんな、言ってなくて」
「うん・・・でも、それって春休み中ずっとなのか?」
「いいや、あと・・・一週間はかからないんじゃないのか?」
はっ!
なんでそこで疑問系なんだアホ〜!!
アスラン、思いっきりこっち見てる
あの眼差しは疑ってるよ
「とにかく!この話はおしまい!!いいじゃないか、今こうして二人で会ってるんだし」
「うん」
なんとなく、腑に落ちない表情のまま
アスランは子供のような返事をしてカガリの肩に頭を預ける
普段は頼りがいのある彼だが、二人きりの時は、うんと甘えてくる事がある
そんな彼の性分も付き合い始めてから知った事で
カガリにしか知らない特権だ
甘えたいのはカガリも同じだが、
そうやって、さりげなくやってくる仕草にすら
彼に対して愛おしさが込み上がる瞬間でもあった
「じゃぁな、ヤマト あまり根つめるなよ?」
「はい、大丈夫です」
研究熱心なキラ
声をかけると必ずいつも同じな台詞に、同僚も苦笑するしかない
初めのうちは早く帰れだの、明日でも出来るものは回せだのと助言をしてきたが
何より頑固な彼には聞く耳を持たない
自分に厳しいといえばそうとも取れるが・・・
無理はしていないのがわかれば、こちらも煩く言うのを止めた
「お疲れ」
「お疲れ様です」
パタンと扉が閉まれば、静寂が部屋を包み込む
白色のライトの下、キラは一人居残った
それから何時間経ったのだろう?
研究室に鳴り響く電子音
レポートを書き終え、後片付けを行っていた最中の出来事
時計を見れば、21時を回った頃だ
長い間、机に向かっていたせいか肩が凝る
無意識的に首を回しながら携帯を手に取った
「はい」
着信表示は友の名前
だからあえて名乗らない
『今、大丈夫か?』
「うん もう帰るよ 何?」
アスランもキラが忙しい事は承知済みだ
だからこうして彼が家にいない時間に電話する時は遠慮しがちに伺う
『聞いてくれよ 最近カガリが冷たいんだ』
「何だと思って出てみたら・・・・相談?」
肩に携帯を器用にはさみながら、両手にフラスコを持ち運ぶ
ピクリと眉間に皺を寄せ、ため息をつく
『なんだよ、冷たいな』
「いっとくけど、惚気話は聞かないからね」
色々山あり谷ありなカップルだけれども、最終的には幸せそうにしている妹を見て、
いくらなんでも別れ話がきりあがるはずが無い
大切な妹を取られ泣かされたりもして、腹立たしい事もあったが、
何だかんだいって、上手くいってはいるのだとキラも二人を認めていた
『違うよ カガリの奴、学校が終わるとすぐに帰っちゃうし・・・』
アスランの一言でカガリがラクスの元でお菓子作りをしている事を思い出す
愛しい彼の為、バレンタインチョコを渡す為に一生懸命頑張っているという
キラは事前にラクスから話を聞いていたのだ
まだ何も知らないアスランにクスっと笑い、意地悪をする
「喧嘩?浮気?」
『お前、真剣に聞いてないだろ』
「まさか、カガリが浮気するだろうとは思えないね 君の方に問題があるんじゃないの?また」
キラは過去を穿り返すように語尾を強調する
『どーして、冷たく当たるんだ まったく』
不器用さは昔と変わらないが、彼女を大切に想う気持ちは数倍違う
お互い浮気なんてもってのほかだ
「べつにぃ〜」
『なんかムカツク言い方だな』
「じゃ僕は帰る支度するから・・・」
『ああ、すまない』
そんな心配しなくてもいいと思うけどなぁ
アスランの奴、本当に不器用なんだから・・・
月の光が照らす中、誰もいない廊下を歩きながら
キラは自然と笑みをこぼした
そして、運命の日
昨夜もいつもと変わらぬ恋人との電話
特別にバレンタインの話題は触れずに、ただ夜に会う約束をした
きっと、アスランの事だ
バレンタインの『バ』の字も気づいていないに違いない
いや、街へ繰り出していれば、広告やらで気づいたりするだろうけど・・・
ここ数日は一緒に出かけてもいない
まして、引っ込み思案なアスランは出かける時は必ず声をかけてくるし、
一人で買い物に出かけるなんて、そうそう無いだろう
「あ〜どれにしよう?!」
カガリは朝から気合を入れまくりだ
朝起きたらすぐに昨日から続く洋服選び
寝不足は肌とクマの大敵という事で、とりあえず一旦終了したものの
部屋の中は服達が散乱していてすごい有様
夜まで何時間もあるというのに、今日はアスランに会うまでの時間すべてに費やすつもりらしい
肝心な今日の主役はキッチンのカウンターに非難しているからなくなる心配は無い
ラクスと散々悩んで決めたレシピは
ケーキもカガリ的には良かったものの、なにしろ経験の浅い即席娘のカガリ
「失敗したら・・・」とラクスに言われ、大人しくトリュフを選んだ
昨日のうちに全て終わらし、今ではラッピングも完璧になった姿で置かれている
久しぶりに彼女とのデート
待ち合わせの場所へ一足先についてしまったアスラン
カガリとの事を優先的に考え、仕事も残業せずに片付けてきた
駅に入れば、上手く到着した電車に乗り込む事ができ、そのままスムーズにやってきた
約束の時間までは、まだ15分ぐらいある
さすがにまだこないだろう・・・
アスランはボーッと空を見つめながら、はぁっと息をつく
例の心配事もふと気になったが、キラのいうとおり彼女を信じると決めた
昨日の電話も嬉しそうだったし、俺の勘違いかもしれないな
「アスラ〜ン」
遠くから嬉しそうに駆け寄ってくるカガリ
時間に余裕を持って出てきたつもりが、すでに到着しているアスランを見て、慌てて走ってくる
自分の名を呼び、微笑む姿はなんとも愛おしい
今すぐ抱きしめてキスしたい衝動に駆られるも、ココは屋外だ
アスランは欲望の蓋を理性で懸命に閉じ込めた
「カガリ」
己に向けられる笑顔に返すように、アスランもカガリの名を呼び微笑む
今、この瞬間が正しく、幸せいっぱいの恋人同士の雰囲気だ
が、そこまではよかった・・・・
その数秒後、まさかカガリが転びそうになるとは誰が予測できたであろう
「うわっ・・」
うっそ?!
アスランも驚きよりも、先に体が動く
目の前でよろける彼女を見過ごすわけにはいかない
「カガリっ!!」
あっ、バカ 来るな!!
お前まで一緒に倒れたら、チョコが・・・・!!!
アスランは持ち前の反射神経と運動神経をフルに使い、カガリを受け止める
なんとか無傷で助かったものの、カガリの思いも無残に引きちぎられ
コートのポケットに忍ばせてあったチョコもペシャンコになってしまった
「大丈夫か?まったく、何も無いところで転ぶなんて・・・って、どうかしたのか?!どこか痛む??」
ため息交じりでカガリを抱え込んだのは良いものの、肝心な彼女は泣いている
突然のアクシデントに今度はアスランが慌てふためく
ポロポロと零れ落ちる彼女の涙をぬぐいながら、顔をのぞく
「どうした?気分でも悪いのか?」
「・・・・・・」
慎重に問いただしても、彼女から帰ってくるのは無言の言葉
ただ首を横に振るだけだ
せっかく・・・
作ったのに
アスランに
食べてもらいたかったのに
カガリのショックは計り知れない
半月前からラクスの元で修行してきたのに
一番に喜んでくれるから、一生懸命作ったのに
何よりも、ただ、自分が一番好きな人に食べて欲しかったから
喜ぶ顔が見たかったから・・・・・
カガリは無言のまま、ポケットから小さな箱を取り出す
それにアスランは気がつくと、すぐに彼女の泣いている理由が理解できた
そうか・・・・
今日はバレンタインだったな・・・
けれど、あえて口にしない
その方が、彼女に良いと思ったから
力なき細い手に乗せられた可愛らしい箱
自分の為に作ってきてくれたという出来事
今まで、早く帰っていたのはそのせいだと、漸く全ての納得がいった
ヒョイっと箱を奪うと、何事も無かったかのように中身を開ける
「アスラン?」
形は歪になってしまっていたが気にしない
「いただきます」
「えっ・・・あ、ちょっと・・・」
アスランは躊躇うことなく一粒を食べた
「・・・美味しい」
「ばっ・・・そんなつぶれちゃってるの食べたって不味いだろ?!」
「平気だって ほらカガリも食べてみて」
アスランはカガリの心配を他所に、にこやかに笑う
「無理するなよ・・お前が腹でも壊したら・・・」
呆れ気味でカガリが正面に座り込む
そして彼の手元にある小さな箱からトリュフを取ろうと、手を伸ばす
しかしながら、アスランはカガリの手を阻むと、逃すことなく彼女の口を塞いだ
「ん・・・・っ?!」
「・・・・・・・ね、甘くて美味しいでしょ」
唇が離れると、アスランは子供のように小さく笑う
彼の突然の不意打ちに、口元を押さえながら、へたり込むカガリ
アスランがこんなことをしてくるなんて思っても見なかった
彼に食べてもらう事事態、諦めていたのに
それを覆すようなアスランの行動
さっきまで流れ落ちた涙なんて、驚きのあまり引っ込んでしまった
「感想は?」
「あ・・・・甘い」
口の中に彼からうつされたビターの甘さが広がった
「俺の為にありがとう」
目じりに残る涙の粒を拭い去りながら、アスランはお礼を告げる
「ううん、今度はちゃんとつくるから」
「やっぱり、カガリはいいお嫁さんになれるよ」
「な、なにを?!」
カガリの恥ずかしさはピークに達していた
彼からそんな言葉を聞けるなんて・・・
今日だって、初めての手作りチョコを作って渡して・・・
自分では精一杯な出来事だ
「その赤面症治してもらわないとね」
「仕方ないだろ?生まれつきだ」
「まぁ、それはそれでカガリらしくて俺は好きだけど?」
またっ!!
いつもいつも、どーしてこの男は恥ずかしい言葉を・・・
「そーいうこと言うから・・・」
"恥ずかしいんじゃないか"って
そういうつもりが、言うに言えずにそのまま
視界は深い藍と碧に塞がれて、私は彼とこの日二度目の口付けを味わった
大好きな彼の為に、想いをこめて作ったチョコ
本当はちゃんとしてまま受け取って欲しかったけれど
アスランは美味しいと食べてくれた事
すごく嬉しかったんだ
だからこれからも、毎年必ず作るから
飽きずに美味しく食べてくれよな
一方・・・・
同日、こちらも幸せいっぱいの一組のカップルがいた
「キラ、なんだか太りました?」
ジィっとキラの横顔を見つめながら、ラクスは首をかしげる
それには彼自身も気がついていたみたいで、思わず苦笑いを浮かべた
「そうかも・・・バレンタインの前なんて連日カガリの試作を食べさせられてたから・・・」
「まぁまぁ、全部食べてたのですか?お優しいのですね」
「ラクスこそ、一緒になって僕に食べさせてたじゃない」
知ってる癖して、意地悪な事を言うラクス
暢気に振舞う彼女にため息をつくばかりだ
「ふふ、では今度はダイエットですわね キラv」
ギュっと抱きつきながら、可愛らしく告げるラクス
キラはほんの少し己の不安を感じる
「まさか食べさせてくれないわけじゃないよね・・・・」
「さぁ?それはどうでしょう?」
ラクスの円満の微笑みが、今後キラの身に起こる事件を予感させた
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2012/02/12