小さな紳士
「キラ〜!!」
僕の大切な2つ下の小さな妹は、僕が学校から帰る時間になるといつも家の前で待っている
大体、僕が小学校に入学してから始まって、それが何時の間にかあたりまえになっていた
母さんいわくカガリは寂しがり屋だからと苦笑して、家の前ならばいいよと言ってくれた
チョコンと座り肘を付いて空を眺めている姿はとても愛らしい
僕にとって見ればとても嬉しい事で、僕の姿を見るなり駆け出してくる
「そんなに走ったりしたら危ないよ!」
「わ〜い捕まえた!!おかえりっ!!」
「ただいま」
金糸の髪を風になびかせながら飛びつき
一番先に「おかえり」を言ってくれる小さな女の子
カガリが僕の妹で本当に良かったと思う
「学校楽しかった?」
「うん、楽しいよ カガリも早く通えるといいね」
「来年だって、母様が言ってた!そしたらキラと一緒だな」
「楽しみだな さ、家に入ろう?」
「今日ね おやつパンケーキだって言ってたよ?」
「本当?カガリの大好物だね」
「うん!」
「よし、じゃぁ、僕の分も取られる前に食べないと」
手を繋ぎながら、玄関までの短い時間
カガリと今日の出来事なんかを話しながら歩いていく
僕とカガリは生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた
父親よりも、母親よりも、もっともっと深い絆で結ばれた
もはや二人で魂を共有しているようなそんな存在だ
物心付いてからも、片時も離れることなく
互いに守らなければならない存在として
喧嘩もせずにいつも一緒にいた
「・・・・キラ?」
コンコンとドアを叩く音がして、目が覚める
微かに響くのはカガリの声
眠い目を擦りながら枕もとの時計を手繰り寄せ、時間を確認する
針は丁度、夜の23時を指しており、カガリが起きているなんてありえない
疑問に思いながらも、僕はドアを開けた
「どうしたの?お母さん達に怒られちゃうよ?」
心配そうに俯く妹の顔を覗き込めば、その大きな琥珀の瞳は涙で濡れていた
ソレを見たキラは眠気なんてすぐに吹っ飛んだ
しゃがみながら、カガリの目線に合わせて髪を撫でる
「カガリ?怖い夢でも見た?」
思い当たる節を次々に浮かべてみてもカガリは一向に首を横に振るだけだ
何故口を利いてくれないのか、キラは困り果てていた
「僕が聞いてあげるから、何があったの?教えて?」
「・・・・っ・・・離れちゃうって・・・」
「え?」
「カガリの事、養子にするって・・・」
カガリは震えながら、パジャマをギュっと握り締めて、
ついにはキラに泣きついてしまった
そんな姿を前にキラは驚愕した
「ううっ、キラと別れるのなんて嫌だぁ〜」
「カガリ、泣かないで僕が居るから ね?」
「でもぉっ」
泣き続けるカガリを宥めながら
無力な自分に唇を咬んだ
こんな毎日がずっと続いていくと信じていた日々
けれど、運命とは時に意地悪で・・・・
僕達が知らない間に、僕とカガリの路は隔てられていた
気がついてもどうしようもなく、ただ従うだけしかなかったんだ
不幸にも、まだ幼い子供でもある自分達に、
これからの人生について、深く考えさせられる事件が起きた
それは親同士が決めた、カガリの養子計画だった
古い付き合いでもあるアスハ家とヤマト家
話を聞けば、子供が一人も出来なかったことから
双子が生まれたのをきっかけに話が進んだという
大人の事情という事か、僕は怒りを感じたが
ウズミさんは本当にいい人で、カガリを心から自分の子供のように接していた
そんな姿を見て、正面から文句の一つも言えずに
僕は一人でカガリよりも先に決心をしたんだ
「ひっく・・・っ」
「泣かないでカガリ」
部屋に招きいれ、キラはカガリを宥め続けた
「決まってしまった事だけど 僕とカガリの血は切れる事はない」
「でも、キラと一緒にいられないもん」
「カガリを通して、僕らにも新しい家族も出来るんだよ?」
養子の話が悪い事ではない
二度と会えないわけでもないだろう
キラは仲の良い大人たちの姿を見て、予感する
けれど、自分だってカガリと、妹と離れるのは嫌だ
それに肝心な本人達に一言も話をせずに事を進めてしまっているのに対し
少なからず怒りが湧いた
「・・・・行こう カガリ」
「キ・・ラ?」
「このままじゃ、いけない 僕も、カガリもね」
優しく微笑み、キラはカガリと手を繋ぎ階段を下りていった
夜遅くになるものの、リビングは浩々と明かりが灯り話し声が聞こえてきた
良かった、まだ叔父さんはいるみたいだ
キラは怖気づくことなく、ドアを開けた
「父さん、母さん、叔父さんも・・・お願いがあります」
「キラ!カガリ!」
「二人とも、こんな遅くに・・・・!」
振り返れば、真っ直ぐな瞳を携え、
小さいながらにもきちんと意見を述べようとする少年と
その後ろに隠れるように顔を覗かせる女の子が立っていた
「どうしたんだい?キラ君」
叱ろうとするカリダを制して、ウズミはキラの話を聞く
「・・・・僕は・・・僕とカガリは離れたくないんです」
話を聞かれていたのかと、ギョッと目を丸くするカリダ達
「どうしたの?突然」
すぐに平然とした表情で、子供をあやす様に笑顔を作るものの
動揺した彼らの姿を、キラは一瞬でも見逃さなかった
ああ、やっぱり本当の事なんだと確信できる反面、悲しみが込みあがる
それでもキラは泣き顔一つ作らずに、自分とカガリの思いを大人にぶつけた
「養子の件、カガリから聞きました」
「キラ!!」
「すでに決められてしまっているのなら、せめて僕らが大人になるまで一緒に暮らしてもいいでしょうか?」
彼の発言に驚く両親
呼ぶ声も、思わず声も大きくなる
その反応にカガリはますます縮こまる
暫しの沈黙と緊張がリビングを包む
怒られてもかまうもんか
関係ないだなんても言わせない
キラはギュっとカガリと繋いでいた掌を握りなおした
「・・・それはかまわんよ 私達も、君らの幸せを壊そうとしているのではない」
「ウズミさん!!何を・・・・」
「無理はなさらないで下さいよ?!」
「いや、なに 養子としても戸籍上の事だ 君達はいつも通りの生活をしていてかまわない」
「それじゃぁ、叔父さん!!」
「ただ・・・・親となっても子供の顔が見れないのは、ちと寂しい」
ウズミはソファから立ち上がると、真っ直ぐカガリの前までやってくる
カガリは首を傾げながら、ウズミを見つめた
「叔父様・・・?」
「カガリ、毎日とは言わない 好きな日でもかまわないからお前の元気な姿を見せておくれ?」
ポンポンと大きな掌でカガリの髪を撫でてやる
「うん!!」
カガリも嬉しそうに返事を返した
「さ、今夜は遅い 子供は早く寝なさい」
「はーい」
上機嫌でいち早く立ち去っていくカガリ
だが、キラはまだそこに居た
「キラ?どうしたの?」
「・・・・ウズミさん」
「なんだね?」
「生意気な事を言ってスミマセンでした」
キラの大人びた振る舞いに、三人は驚く
ウズミは苦笑しながら
「いや、かまわんよ キミが彼女の兄でよかったと思ってる」
「ありがとうございます おやすみなさい」
一礼して部屋に戻るキラ
ウズミはその小さな背中を見えなくなるまで見続けた
パタンとドアが閉まると、静寂な空気が戻ってきた
「お茶入れなおしますね」
「本当にスミマセン、ウズミさん 勝手な事を言って」
「いやいや、頼もしい子だ」
キラたちが去った後、
ふふっと、ウズミが苦笑した
「あの瞳、良い目をしているな 小さなライバル登場かな?」
自分の部屋に戻ってくるなり、
ドアの前に先に戻ってきたカガリが座り込んでいた
声を掛ける前にカガリがこちらを見る
「一緒に寝よ!!」
「いいよ ぬいぐるみは持ってきた?」
「うん!!」
泣きはらした瞳は真っ赤になっていたけれど、カガリは笑顔で答える
キラも安堵の息を付きながら微笑んだ
「キラ、良かった?」
「うん カガリも・・・これで良かった?」
「当たり前だろっ!キラと一緒で良かった!!」
「ありがとう」
こんな僕でも必要としてくれる存在
その子は泣き虫で、寂しがり屋
それでも、とても笑顔が似合う子
守らなければいけない
大人になるまで・・・・・・・・
それはきっと、彼女にとって
僕よりも大切な存在が出来た時だろう
その時まで、僕はこの小さな金の天使を守っていこう
だからそれまで、僕の側で微笑んでいてね
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2012/01/29