ンクチュアリ





「行くのか」



静かな広い部屋の中、
壁際にもたれかかり彼女は言葉を発した
薄暗いつ月明かりが窓から漏れる
部屋の持ち主は、彼女の声を合図に
ジャケットを羽織った手を休める



アスランは無言でカガリを見つめた
視線の先にいる彼女は微かながら震えているようで
自分のしようとしている事が以下に愚かな事か思い知らされる
静寂が支配する空間で
彼らの鼓動は静かに、
そして力強く波打つ



行かないで
ずっとココに・・・・・・
私の側にいて



そう言えればどんなに楽な事か
けれどそれは、
今の彼にとっては辛い言葉
私はこうやって声を掛け
旅立とうとするアスランに勇気を与える事しか出来ない
涙目になるのを必死に堪え
微笑みながら彼を見上げる



「カガリ」
「私なら大丈夫だ 無茶な事しないさ お前の方こそ無茶するなよ」
「ああ、すまない」



俺は不器用だから
君に一番な事もできず
こうやってまた戦場へ行く
戦う事でしか己の存在を主張出来ぬというのなら
それでもいい
君を死なせない為にも
俺自身犠牲になっても
君が生きてさえくれれば・・・・



「また、ハツカネズミになるなよ?」
「わかってる」



心配そうに覗き込む
頬に寄せられた彼女細い指を包み込み唇を寄せる
壊れ物を扱うように己の元へ抱き寄せる
琥珀色の瞳とぶつかり合う



「アスラン・・・・・」
「ん?」



少しだけ俯きながら、カガリは彼を呼ぶ



「お前の居場所ならココにある 私の隣りにあるから」



言って欲しかった言葉、
聞きたかったけど聞けなかった
自分でいいのかと
彼女は許してくれるのかと



「カガリ・・・・・ありがとう」
「だから・・・だから、死なないで」



彼がいなくなってしまったら
きっと私は気が狂う



「私を一人にしないで」



その言葉が漏れると同時に、
アスランはカガリを腕の中に抱きしめた
フワリと香る彼の匂い
いつも隣にいた
始めはドキドキ鼓動が止まらずに
いつしかそれが当たり前になっていた



「・・・・っ」



泣かないと決めたのに
笑顔で安心させて見送るはずだったのに



「ゴメン・・・・」



「泣きたい時に泣いた方がいいさ 俺がこんな事をいう資格なんてないけれど・・・・・」



死なないで
必ず私の元へ生きて帰ってきて



「俺は必ず帰ってくるから」
「うん」
「アスラン、愛してる」



この先言えないかもしれない
きちんと、この人の耳に届かないかもしれない
だから口にする
想いをカタチに代えて
あなたに伝えるから



「カガリ・・・」



落とされる唇
名残惜しいと思うのは
わがままですか?
愛しいその声音で呼ぶ名前も
いつまでも見つめていたい翡翠の瞳や
その唇で私を癒してくれた事
優しく抱いてくれた逞しい腕も
遠い過去のようになるのだろうか
それでもかまわない
どうか神様、
もう少し、もう少しだけ
私の我侭を
この一時だけでいいから
聞かせてください



「俺も愛してるよ カガリ」



その想いだけが
この世界の、
二人だけの真実





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2012/01/29