るべきものは何だったのだろう






あれから状況が少しずつ変わっていた
ライルの方からよく声をかけるようになっていたのだ
勿論、刹那の彼に対する態度は変わらない



「よう、刹那」
「なんだ?」
「相変わらず、そっけないな」
「そうか?」



最近は部屋に入ってきては、どかっと椅子に座られる
まるで昔の誰かを見ているようだ
似ていないといったが、どこか仕草が似ている
やはり双子といったところだろうか・・・・



「何か用でもあるのか?」
「毎回、聞くよなソレ 用がなくてもいいだろ話相手にさ」
「・・・・・いいだろう」
「兄さんは俺にとってライバルだったんだ」



突然、昔話が始まる
こうやってニールとも話しこんだことがあったのを覚えていた
だから、嫌な気はしなかった
それはきっと、彼がニールの家族だからだろう



「ライバル・・・」
「そ 子供のころから見比べられてさ だから俺は家を出たんだ」
「そうか・・・大変だったな だからカタロンにいたのか」
「だから現実テロで家族が死んだっての聞いても実感わかなくてさ」
「ニールとは大違いだ 俺が犯人の反政府ゲリラ組織KPSAに居たことを言っても動揺しなかったな」
「お前だって、初めて会った時 全然平気な顔してたな」
「それはある程度予期出来たことだからな」
「兄さんとそっくりなのに?」
「ああ・・・」













「―――なぁ、そろそろ俺を見てくれてもいいだろ」













自分の心の内を吐き出した
ライル・ディランディという一人の人間として
刹那に対する想いだ



「なぜ?」
「なぜって、お前・・・・」
「俺にとって愛せる人間はただ一人だ」
「兄さんだってのかよ」



どいつもこいつも、兄がいいという
ダンと刹那の脇にある壁を叩く
悔しさがにじみ出た

はじめて自身を認めてくれた刹那すら、兄がいいという
兄さんを越えられない
それだけのことなのに
悔しくて、悔しくて



「だったら、俺はお前を振り向かせる」
「本気か?」
「ああ、絶対だ だから・・・」
「ん・・・っ」



グイっと引き寄せられたとたんに口づけされた
強引なまでの接吻
奪うようにそれは与えられた

ドンと刹那は胸を押す
離れて行くライルを睨んだ



「それは約束の証だ」
「・・・・・」
「じゃあな」



口を手の甲で抑えたまま
刹那は返事すらもできなかった
彼の姿が消えてから
寄りかかっていた壁の前に座り込む















「ニール 俺は・・・」















嫌ではなかった
同じ顔だから?
違う・・・自分は二人を認識しているではないか
この気持ちにしろ、ライルに対しても・・・
どうしろというのだ
ニール、お前を想うだけではダメなのか?


















「教えてくれ・・・・」



















もういないたった一人の愛しい人―――
変わらない自分、変わっていく現実
取り残されていく感覚が、ジワジワと心にシミのように生まれた






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2012/01/28