ignted






不覚にもミネルバと離れ、不時着したインパルスとザク
地球への降下はあまりにも負担が大きすぎた
起動を大きくずれた二機は、太平洋真っ只中の小島に着陸した
いくつもの島で連なる諸島は、まだ誰も入り込んだ形跡が無い
恐らく、人の目から離れ時代をただゆっくり過ごす無人島と判断できる



「仕方ない シン、救難信号を発信しておいてくれ」
「わかりました」



諦めに近いため息を付き、アスランは果てしなく続く海原を見つめた
損傷も少ないインパルスに比べ、戦闘により半壊したザクは使い物になりそうに無い
シンはアンテナを射出させ、信号のスイッチを入れた
スピーカーからは雑音が乏しく聞こえてくる



「噂に聞いてはいたけど・・・これほどだなんて」
「まぁ、自業自得だな」



Nジャマーの影響で、地上電波など半分以上は使い物にならない
これにはシンも呆れ返ってしまった
アスランはコックピットのハッチを開くと辺りを見回しシンを呼んだ



「ここにいても仕方ない 行くぞ!」
「ええっ?」



木々の間にMSを隠し、アスランはサバイバルナイフと銃、そして非常用のバックを担ぐ
シンも実際士官学校でも訓練してはいたが、急なことに追いついていかない
彼の真似をして、負けじにシンもバックを後方から引っ手繰る



「今日は野宿だ」
「こんな場所で?」



MSの近くにある洞窟で救援を待ちつつ二人は身を潜めた



「あたりも暗くなってきたし、地理もわからぬ場所で闇雲に動いても体力を削るだけだ」
「教官みたいな事を言わないでください」
「皮肉にも、俺は実践経験豊富な赤の先輩だからな」



そうだった
今はオーブの民間人でも
鍛え上げられた腕と頭脳は今でも衰えない
MSの操縦だって自分と違い冷静な判断で数多くの戦場を潜り抜けてきた



「こーいうのは初めてか?」
「・・・・・・悪いですか?」
「俺は何度かあるが・・・・・・あまり嬉しいとは言いがたい ああ、アスハ代表とも一緒だった事もある」
「・・・あいつと?」



たとえ大戦の英雄同士といえども
オーブの姫となぜサバイバルをしなければならかったのか?
アスランの言っている意味が理解できない



「ああ 俺とあいつは・・・敵同士だったからな 正体を明かさなかったというのもあるが、俺はあいつを殺そうともした」



その言葉にシンは目を丸くした



「・・・それって、世界がひっくり返ってたんじゃないですか?」
「今思えばな 本当に良かったと思う」



一国の姫を殺害でもしたら国家級の罪人だ
戦争とはいえ、まして殺す理由すらもない



「始めは地球軍かと思ったんだ」



あの時、カガリはスカイグラスパーに乗っていたしな
とんだおてんば姫だ
クスクスと思い出すようにアスランは笑う



「もっとも、初めて出逢った時はは女かもわからなかったが」
「・・・・・・・」



テレビや公式の場所でしか見たことはない
あの時は自分は民間人で、氏族である彼らに、
ましてアスハ家など遠い存在だった















「あなたはどうして・・・・」















どうしてオーブなんかに















「ザフトを裏切ったんだ」















パキっと薪が割れる音がする



「俺は裏切ったなど思っていないさ」



アスランは揺れる炎をじっと見つめながら続ける



「けれどあの時・・・・俺のやるべき事が見えたから」
「やるべき・・・事?」
「お前はどうしてザフトなんかに志願した?」
「それはっ!何にも関係のない家族がアスハに殺されて」
「・・・・・関係ないか」



フッと笑う



「何がおかしい!!」
「いや、キラたちもそう言っていた だが、本当に関係のない奴なんてどこにもいない」
「キラ・・・・・・?」
「俺の親友で・・・・俺とオーブの戦場で一緒に戦った奴だ 敵だった時、殺し合おうともした」
「!!」



シンにとって突き刺さる真実
けれど隠すのではなく、あえて告げる
彼には偽りのない現実を受け入れてほしいから















フリーダムとジャスティス
その二機が2年前の戦争で第三勢力として活躍した事
片方が、今目の前にいる人物ならば・・・・
もう一機は・・・・?
謎めいたまま、けれど語り継がれる伝説が生まれたのを覚えている



そして、彼らはあの時オーブにいたという
自分が逃げ惑う中、戦場で戦っていた



「じゃぁ、あんたもあそこに?!」
「ああ、だからオーブも彼女の痛みも知っている」
「なんで、なんで守りきれなかったんだよ!!あなた達がっ」
「俺たちは知らない、関係ない・・・か?なのに守って欲しいというのか」
「!!」
「平和を願うのなら、終戦を迎えたいのなら、ナチュラルもコーディネイターもオーブも全員で考えなければならない そうだろう?」



かつて彼女が言っていた事を思い出す
たった2歳しか違わないのに、頑固な上の連中に懸命に訴えていた
自分が戦争という経験を通して手に入れたモノ
やり場のない思いをぶつけるように拳を作りながら睨みつける



「まだ、あなたがやるべき事とやらを聞いてなかったな」
「俺は戦争を終わらせる戦いをした ただ、軍の命令に従ってナチュラルを殺すのではなく」



シンはアスランの言葉に目を大きく見開く
無意味な戦争だとわかってしまったから
銃を持つ事の意味を知ってしまった己
世界でほんの少しの存在とでしかなかったとしても



「守りたいモノがあったから」



一緒に戦える存在も
守る存在も
俺は手に入れた



「だから、例え結果的にザフトを裏切ったとされても仕方のない事かもしれない」
「あなたはそれでいいんですか?!」



これじゃぁ、まるで悪者を自ら買って出ているに過ぎない



「俺は間違った事をしていない やりたい事やるべき事をしただけだ 俺も、カガリも!」
「っ・・・・・・・」
「お前が今、信念とするものはなんだ?!」



真っ直ぐな瞳
力強い、あの人のような・・・・・・
シンはアスランの眼差しに射抜かれる



「俺は・・・・」



確かに俺の家族は戦争で失われた
悲しかった
何も罪もないのに
守って欲しかった
戦争なんて全然関係のないものだったのに
でも、本当にそれだけ?
何も知らないから、守ってください?
違う・・・・・
軍人である自分と、
民間人であった自分
二人の自分が己の中で意見をぶつけ合う



「目を背けるな 嫌な事でも、全部自分が受け止めなくちゃいけないんだ」



家族の死
残る傷痕
痛む心
無力な自分
憎む現実
力はあったはずなのに
気がつくのが遅かった



「俺たちはそうやって、前に進むことしか出来ないんだから・・・・」
「じゃぁ、じゃぁ、死んで逝った者達の痛みは?哀しみは?どこへ行くんだよ!?」



シンの悲痛な叫びは洞窟内を木霊する



「想いを叫ぶ事ができないなら、代わりに叫んだっていいじゃないか!!」
「それなら逆に聞く!お前はお前の憎む相手を殺して、それで満足か?!その為に軍へ入ったのか?」



俺は・・・・・
力があれば、何かを変えられるんじゃないかと思って軍に入った
復讐とか、そーいう事ではなく
ただ、戦争をするという奴らを止める為に志願したんだ



「いつか、カガリが言っていた 『殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当の平和がくるのか』と・・・」
「!!」
「少なからず、お前はオーブの民の一員だ 俺のように偽りではないのだからな・・・・」



同じ過ちは起こして欲しくない
まして、彼女と同じ国の人間ならば
その理念を誇りに持って生き抜いてくれるように



「俺は・・・・」



シンは"今はザフトの兵士だ"と言う事ができなかった
なぜなら自分は、生まれ育った国を捨て切れなかったから
家族と過ごした思い出を潰したくなかったから・・・



「・・・・もう、寝よう 俺が見張り役をやる」
「え、俺がやりますよ」
「初めてなんだろ?野宿」
「・・・わかりました」



シンはバツが悪そうに舌打ちすると、大人しく寝袋に身をゆだねた
思っていたよりも体は疲れきっており、シンはそのまま眠りの中へと引き込まれて行った



"望む世界"は見つかったのか?
自分達の望む未来は、未だ見つかっていない
あれからアスランはずっと考えてきた事だ
無論、キラ達も・・・
横たわるシンに悲しげな瞳を向ける
彼だって犠牲者だ
そして、俺達も・・・・・



「・・・・本当に望む世界か」



一人になり、アスランはポツリと呟いた

























「おい、起きろ!!」
「ん・・・・・はい」
「まったく、一兵士が大真面目に寝るなよ」
「えっ?!」



慌てて起き上がる
いつのまに寝てしまったんだろう
アスランは一睡もしていないようだ
火が消えないよう、薪をくべていたみたいで、だいぶ薪が減っていた



「もし、ココが敵地で俺が居なかったらどうするんだ」



仮にも赤のクセにと語尾に嫌味をつけて
溜息をつくアスランを見て、思わず正座をしてしまう
シンは後輩として恥かしくなった



「アスランさん 昨日は・・・・・無駄口叩いてスミマセンでした」
「何の事だ?」



アスランはしらばっくれていた



「あ・・・・」
「機体に戻って救難信号のチェックをしなくちゃな」



何事も無い素振り
そんな彼の気遣いに、ふと笑いを漏らす



「そうですね」



この人の優しさに少しだけシンは心温まった
少なくとも平和を願う想いは同じだと、
決して、人を殺めたりする事だけが生きる全てではないと
明るい未来に希望を託しながら
この混沌とした時代を覆す為に、
もっと、前を見るために・・・・・
心に燈を点けろ





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2012/01/29