甘すぎるほどに
「何を見てるんだ?フェルト」
「あ!」
声をかけるとすぐさま背中に隠すソレ
本のようだが・・・
「その・・・チョコレートのお菓子作ろうと思って」
「チョコレート?」
「そっか、バレンタインが近いもんね」
「バレンタイン?」
「刹那知らないの?」
「ああ」
「好きな人にチョコを贈るんだよ」
その言葉に反応するフェルトは頬を赤く染めている
アレルヤは二コリと頬笑み、頑張ってねと呟いて二人は去った
「そのバレンタインとやらは、女から送るものなのか?」
「いや、男からだけど国によって違うみたいだね」
「なるほど・・・」
何か考えている刹那
「ほら、僕が去年作って皆に渡したじゃないか」
「ああ あれの事か」
「全員に配るのもいいし、誰か一人にあげるのもいいんじゃない?」
フェルトは誰にあげるのかなぁ〜なんてニコニコしながら水を汲む
「アレルヤ」
「なんだい?」
「ロックオンに渡したい チョコレート作りを教えろ」
アレルヤは、率直過ぎる台詞に、コップから口に含んだ水をブーと盛大に吹きだした
「いいか、これは隠密行動だ」
「これもミッションなのかい?」
「ああ そうだ」
「やれやれ・・・」
バレンタインまであと何日だっけ?
刹那って料理できたっけ?
ふと、アレルヤはトレミーの天井を仰いだ
それから刹那のチョコレート作りの特訓が始まった
「チョコレートは細かく刻み、ボウルに入れて、約50〜55℃のお湯で湯せんにかけて溶かし、テンパリングしておくんだ」
「了解した」
料理したことはないという割に手際がいい刹那
本を読みながら、彼は頷く
まさか、マイスター男二人で厨房に立つなんて・・・・
フェルトも時々顔を出しては創作チョコレートつくりをしている
彼女は女性だからなんとなく、花がある
でも、こちらは花の一言もなく、"了解した"だの"完了した"だの言葉が飛び交う
これじゃぁ、本当にミッションだ
「あとは型に流して冷蔵庫で冷やして終わりだよ」
「なるほど、簡単だな・・・」
「お、刹那にアレルヤ 何してるんだぁ?」
「ロックオン!!」
「出て行け!立ち入り禁止だ!!」
「ぶっ」
そういうと、刹那は素早くボウルを投げ見事顔面ヒットさせた
立ち入り禁止とか言いながら、相手を気絶させてしまっては意味がない
「アレルヤ、あれの始末を頼む」
「・・・・はいはい」
まったくこのカップルは・・・・
よいしょと、ロックオンを担ぐと彼の自室まで運んだ
それから数時間後―――
ろう城化したキッチンでは二人のマイスターは相変わらずそこにいた
「完成したか?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
冷蔵庫の前でコソコソする二人
「ミッションコンプリートだな」
「そのミッションって言うのやめようよ、美味しくなくなるって」
「そうか?」
「料理にしろ、お菓子作りにしろ愛情が必要なんだからね」
「愛情・・・・」
手に取ったソレを静かに見つめる刹那
ふと、目を冷蔵庫の中に移せば、フェルトが作ったと思われる可愛らしいラッピングのチョコレートがある
自分にはそんな技術はない
ロックオンを喜ばせる事が出来るのだろうか・・・
ふと不安がよぎった・・・
そしてバレンタイン当日
フェルトは皆に配り歩くなか、刹那はなぜか沈んだ顔をしている
不審に思ったアレルヤはこっそり尋ねた
「えっ 渡してないの!?なんで?どうして??」
「・・・・・・その、形と包装が・・・フェルトの方が可愛い」
「そんなの気持ちの問題だよ!!気にしないで!!あんなに頑張ったじゃない!!」
その言葉に後押しされ、もう日にちが過ぎようとした時、
刹那は彼のもとに訪れた・・・
「ニール、バレンタインだ」
すっと、チョコレートの入った箱を差し出した
「俺に?!」
「ああ」
「すげー作ったのかよ?!」
中を開けて綺麗に出来上がったチョコを一粒一粒確認する
そして、口の中に一口放り込む
「美味い、美味しいよ」
「そうか、よかった・・・」
彼の笑顔を見れて安堵する
不吉な予想が外れてよかったと思う
気にし過ぎていたんだ
「ありがとな 刹那」
「いや・・・」
「俺からもプレゼントさせてくれ」
「え?」
「ちょい付き合えよ」
そういい、やってきたのは、刹那にとって名残りあるキッチン
「何をするんだ?」
「いいから、そこに座れ」
カチャカチャと食器を取り出し、ミルクを温める
そこに、刹那のチョコレートを数個入れた
「あ」
「大丈夫 見てな」
ニッとウインクするロックオン
「もういいか よし、できたぞ〜」
コップを二つ用意し、流し込む
そこには刹那の好物のミルクとチョコレートがブレンドされていた
「ホットチョコレートだ 美味いぞ」
「ニール・・・」
「俺から刹那へ どうぞお飲みください、お姫さま」
「俺は男だ」
「ははっ 違いない」
いただきますと、一口、口に含む
ほろ甘い香りとまろやかなチョコの口どけが喉を通りすぎる
「・・・・美味しい」
「だろ?」
頬杖をつき、刹那の目の前でほほ笑むロックオン
ああ、幸せだと感じる瞬間でもある
この笑顔が好きで、気がついたら恋をしていた
見つめるだけで言葉が止まらない
「ニール」
「ん?」
「大好きだ」
その言霊に惹かれるように、瞳を細める
「俺も 最高のバレンタインだ」
繋いだ唇はとてもとても、甘く優しいものだった
back
2012/02/14